淡白マスヲのたんぱく宣言 

40過ぎのおっさんのエッセイ。昨日より、今日見たことや感じたことを書きたいと思っています。

1380億ドルよりも価値がある

 平日、睡眠が浅くなりだしてからは毎日お昼休みの昼食後に昼寝をするのが日課になっている。
 晴れの日にはお気に入りの木製のベンチがあって、街中ではあるが裏路地のせいか利用者も少なくマスヲ専用のお昼寝ベッドになっている。

 春先はまだまだ寒い日も多く、スーツの上着だけでは寒いのでアウターを1枚来て寝ていた。
 目元が明るいと寝つきが悪いことに気が付いて目元にハンカチを乗せていたが、春先は風が強い日が多くよく飛ばされたので、アイマスクを買って利用するようになった。

 陽気がよくなるにしたがってアウターを脱ぎ、最近ではスーツの上着さえ脱ぐことが多くなってきたが、それでもここ何日かは暑く感じることが多くなってきた。
 そのためか、今日は上着を脱いだままランチに出かけて、昼寝をしようとするとアイマスクがない。アイマスクは上着のポケットに入れっぱなしの習慣になっていたからだ。

 仕方がないので昼食を済ませるとマイベッドでの昼寝をあきらめて、現場の自席に戻った。
 時計を見るとお昼休みはまだ30分以上あった。スマフォで音楽を聴くことや1回読み終えたばかりの読後感の良かった小説を読むことも考えたが、机にうつ伏して昼寝を試みることにした。

 気が付くとお昼休みを告げるチャイムの音がぼんやりと聞こえる。目を開けて顔を上げると自席でしっかりとした眠りについていたことに気が付いた。
 しばらくは頭がぼんやりしていたので、正面をぼんやりと見ていた。マスヲの正面は机でできた3列の島の向こうに表通りに面した窓がある。
 普段はブラインドがかかり、その向こうにはこの季節にぴったりの新緑を街路樹が装っていた。
 街路樹は大通りの手前と向こうに2本見え、光の当たり方や風の向きや強さが違うためか常に違う表情を続けていて見ていてあきない。いつも見ている窓からの景色なのに、まったく別物に見える。

 給湯室に行き、ドリップバックのコーヒーを入れて飲むためにドリップバックの入った包装を開封した。コンビニのPB商品のために高価なものではないし、マスヲがマスクをしているのにも関わらず開封しただけでコーヒーのしっかりとした香りが広がった。
 もちろんドリップしている最中もいつも以上にコーヒーの香りがしたし、入れ終わってのんでもいつもよりもおいしく感じた。

 このあたりから自分が昼寝にも関わらず、最近経験したことのないような深い眠りについていたことを確信した。
 普段悩まされていた偏頭痛も昼からはほとんど気にならなかった。

 コーヒーを飲みながらブラインド越しに街路樹を再び見ても、時間の経過のためか日の当たり方が変わり色合いが違っていることにも気が付いたし、手前の街路樹は先ほどよりも強い風に吹かれていたが、奥の街路樹はそれほど揺れてはいない。

 まわりの人たちを眺めると昼下がりのせいか、ぼんやりしている人や睡魔と闘っている人、真剣な表情でパソコンに向かっている人たちの力の入り方までが読み取れている気がする。

 表で風に当たりたくなりエレベーターに乗った。上のフロアから乗っていた女性のフレグランスを強く感じた。マスクと花粉症気味のせいか最近はほとんど気になったことがなかった。

 表通りの通っていく車を眺めているとバスが多いのに気が付く。大きな駅前の大通りなので当たり前だが、普段はそれにもあまり気が付いてないのに、誰が乗っているのかにも自然に好奇心が湧いた。
 歩道を歩いている人たちを見るとひとりひとりの手の振り方や、足音の違いにも気が付いた。

 オフィスに戻ろうとエレベーターに乗ろうとすると同乗した女性がいた。彼女はマスヲより少し年上に見えたが彼女の髪の毛からタバコの臭いがした。このビルの1Fには共用の喫煙所があるので、きっとそこで喫煙していたのだろう。

 帰宅中の電車でも再読していた小説を読んでいるときも再読のせいもあるかもしれないが、初回に読んだときと描写のイメージがより自分の中で膨らんでいく。
 そのせいもあってかあっと言う間に自宅近くの駅についた気がしたし、振り返ってみれば昼からの時間の経過も全体的にいつもより早い。

 駅のホームに降りると20代らしきカップルがマスヲの前を歩いていた。
 彼らがホームから改札をでるまでの間の歩くスピードや寄り添い具合などからお互いをどのように思っているかを想像しながら微笑ましく見ていた。

 駅の自転車置き場から自転車で自宅に向かった。自宅までは幹線道路を横切らなくてはいけないが、そのための信号は2か所だ。
 いつもはどちらで渡るかも迷うし、あわてていたりイライラしているときなどは信号でないところで渡ったりすることもある。今日は自然と手前の信号の変わったタイミングと、その次のまた次の信号の変わったタイミングを観察しながら、洞察してふたつ目の信号で渡るとスムーズに渡れることに気が付きスムーズにわたることができた。

 信号を渡る手前に小さな川がある。川といってもドブ川ともいえるような川だが、夕暮れを浴びた雑草の中で黄色い花が綺麗に咲き揺れているのが目に入った。
 そして風が川の方から草の臭いを運んできて、マスヲを気持ちよく包みこんだ。

 なんだかとてもゆったりした気分で帰宅することが出来たし午後からは特別な日、特別な自分になった気もしていたが、十分な睡眠時間と熟睡が確保されれば毎日が朝からこのような感覚や気分で過ごせるはずだということに気が付いた。

 インターネットで調べると次のような記事を探すことができた。
 Bloombergの記事によると『睡眠不足は翌日に頭痛や倦怠(けんたい)感を引き起こし、日常生活に支障を来すだけではない。労働者の生産性を低下させ、死亡リスクを高めることにより、日本経済に多大な損失をもたらしている』と。
 また、次のように『日本の損失は年間1380億ドル、調査対象5カ国でGDP比が最大』とも書いてある。

 1380億ドルを日本の人口を1億2700万として概算するとびっくりするような金額になった。
 睡眠不足の原因のひとつは間違いなく、最近時事問題のひとつになっている長時間労働だろう。

 その問題を企業や行政に訴えるのには上記の計算金額のほうがアピール度は高いかもしれないが、マスヲにとっては今日の午後のような時間を1日中、毎日過ごせるほうが素晴らしいと思っている。