淡白マスヲのたんぱく宣言 

40過ぎのおっさんのエッセイ。昨日より、今日見たことや感じたことを毎日書きたいと思っています。

北酒場③ 【飛騨・信州路の冬のひとり旅 その4】

 天ぷら屋は先ほどまで居たおでん屋にくらべると、ひとまわりほどこじんまりとしていた。席はおでん屋と同じでカウンターのみ。先客は男性2人。離れて座ってはいたが何となく顔見知りのようだった。
 自分はその間に割って入いるように座った。熱燗と春菊とごぼうの天ぷらを注文した。

 店のオーナーの自宅は飛騨古川であることを話してくれた。雪のない時期であれば車で20分ほどのようだが、この店を出店してからは高山に部屋を借りて住んでいるとのこと。
 おでん屋の女将さんの真新しい割烹着と違って彼の白衣は油などで汚れていた。使い込んでいる証拠だろう。
 どちらの天ぷらもそれなりに美味しかったので、出店の経緯を聞くと特別どこかで修業したわけではないようだ。

 熱燗を飲み切ったころには自分でもかなり酔っているのを自覚できるほどだった。こんなところでまだ飲み潰れるわけにはいかない。熱いお茶とえびの天茶を注文した。天茶は他にも貝柱もあったのだが、こちらを勧められたからだ。熱いお茶がしみいる。

 天ぷら茶漬けができる間に、この辺りにキャバクラなどがないかを全員に尋ねた。はじめは芳しい返答がなかったが、店の主人が思い出すように店の名前を教えてくれた。ワンカラットという店の名を。客の2人も納得するように頷いた。

 左隣に座っているお客が呟いた。男性で黒縁の眼鏡をかけている。この街はコンパクトで便利ではあるけれど何もないからね、と。
 彼の話をさらに聞くと、夫婦で東京から移住してきたとのこと。彼の希望ではもっと田舎に住みたかったようだが、彼の妻があまり田舎だと生活しずらいということで、高山市内の街中に住んでいるらしい。この街での暮らし自体は気にいっているようだ。

 茶漬けを天主がカウンターに置いてくれた。出汁と天ぷらのあいまった匂いに惹かれてすぐに箸をつけた。瓶ビール1本と日本酒を5合も飲んでいたせいか無性にご飯が美味しく感じた。あっという間に完食して会計をお願いした。
 会計が終わるとそのまま店の外まで自分を見送ってくれて、ワンカラットまでの道を詳細に教えてくれた。店が2F にあるために階段を登る必要があることまでも。

 高山の寒い夜の中、期待に胸を膨らませてワンカラットまで歩きはじめた。心なしか少し速足のような気もする。
 スマホで時間を確認すると23時近く。2、3分ほど歩くと看板が見えてきた。確かに『ワンカラット』と書かれている。階段を登り店の扉を開けた。

 入口のボックス席に待機の女性スタッフが何人か座っていた。男の店員に促されてボックス席に座る。
 自分の目線には通路で隔てられたボックス席にはサラリーマン風の2人が座っていたのが映った。キャストの2人が彼らをもてなしていた。彼らを見て今日が金曜日であることを思い出した。

 自分に1人目のキャストがついた。残念ながら自分のタイプではなかった。ヒッティングゾーンは狭いわりに、ストライクゾーンが広いのに。
 彼女にウイスキーの水割りを作ってもらい、適当な会話で時間をやり過ごした。失礼かもしれないが、今思い返しても彼女の顔はまったく思い出せない。
 正面の2人の客が席を立って帰っていった。彼らを見送りながら水割りをちびちびと飲んだ。

 しばらくすると彼女が呼ばれて代わりに違うキャストが横に座った。
 彼女を見て一目で気に入った。白いドレスが似合っていた。彼女から受け取った名刺に目を引かれてしまった。5センチほどの大きさの正方形をしていたからだ。彼女の名前が書かれている。『AYU』と。

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AYUちゃんの名刺
 年齢を聞くと27歳だと答えてくれた。AYUちゃんに飲み物を勧めて会話を続けた。むかし、名古屋に住んでいて錦で働いていたことを教えてくれた。
 自分が毎日blogを書いている話などもしたかもしれないが、とにかくあっという間に時間が過ぎてしまった。

 本当なら延長したいところだったが、今回の旅行の目的はスキーのはずだ。明日も早めに出発してゲレンデに向かいたかったし、ホテルの門限も気になっていた。
 自分を納得させるようにチェックをお願いした。その間にLINEの連絡先を彼女に聞いたら教えてくれた。
 支払いを済ますと店の外に出た。
 
 酔っていることもあり、無事にホテルまで戻れるか心配だったが迷うことなく辿りつくことができた。近い距離だとは思うが、道に迷ってどうしようもない場合にはタクシーを呼ぶことも考えていた。
 帰り道を彼女に聞いていた気もするが、正直そのあたりの記憶はおぼろげだ。

 ホテルの自分の部屋で時間を確認すると日付が変わっていた。
 彼女に巡りあったおかげで今夜の飲み歩きは気分よく幕を降ろすことができたし、それ以上に気分よく眠りに落ちていくことが出来た。
 旅はまだ明日というか、はじまったばかりの今日もある。(つづく)