お腹を満たしたら、睡魔が襲ってくるかと思っていたがそうでもなかった。前夜、仮眠しかとっていなかったのに関わらず。
それ幸いにと県境を越えて、愛知県まで車で戻ってくると、車は増えだした。
14時過ぎに、次の目的地に着いた。友人が経営するフラワーショップに。
マスヲは20代のころ、生花の仲卸を営んでいる会社に6年ほど勤めていた。その際に知り合ったのが、立ち寄ったフラワーショップのオーナーだ。
当時、その友人の母親が先代のオーナーだった。彼の母親の強い勧めで、友人は自分が勤めていた会社に修行に来ることになったのだ。
友人とは年齢も一緒で気が合い、お互いに美味しいものとお酒が好きなこともあって、当時はよく一緒に呑みに出かけたものだ。
彼にはコンパも何度か誘ってもらったこともあった。フラワーショップのオーナーに相応しい外見で、自分とは違ってスマートなイケメンなのだ。
お互いに結婚して、彼は娘が2人で自分は娘が1人というところも、縁がある気もする。ただ彼の場合、家庭は円満だが。
スキー場で買ったささやかな洋菓子をお土産にして、店の扉を開けた。若い男性の店員に声をかけられながら、店の奥のカウンターに向かった。
カウンターで大きなアレンジを作っていたオーナーは、笑顔で迎えてくれた。
挨拶の次の自分の発言はお手洗いを借りるお願いだった。もちろん、断られるはずもなくお手洗いに急いだ。
お手洗いの扉を開けると、びっくりした。お手洗いの中に多くの千両が水揚げされていたからだ。
水揚げされている千両を跨ぎながら、便器に近づいて用を足した。
カウンターまで戻ってくると、千両だけが卸売市場で取引される千両市、同じように松だけが扱われる松市のことを聞いた。
お手洗いまで使うほど千両を仕入れているということは、ある意味では時間の経過が緩やかかと思ったが、オーナーの話を聞くとそうでもないことがわかった。
自分が働いていた、20年以上むかしに比べると千両も松も生産されている量も消費者が買い求める量も、減り続けているそうだ。
もはや、松や千両だけを別日に競りをしなければならないほどの流通量ではないようだ。
自分と話している最中も、友人の手は休んでいなかった。オリエンタル系の百合を使った大きなアレンジフラワーを活け続けていたのだ。時折、数歩歩いてアングルを変えて確認しながら。
どんな用途なものかを尋ねると、あるスナックのママさんにお客が贈るプレゼントだと教えてくれた。彼は続けた。最近はそういった飲み屋さんの元気がないこと。フィリピンパブだけは比較的ましなことを。
自分は彼に質問した。最近カラオケボックスに行ったことがあるかを。
友人は久しぶりにカラオケに行ったようで、思っていた以上に料金が高かったことが印象に残っていたようだ。
カラオケ料金の変化とフィリピンパブが流行っていることに関連性があるというのが、自分の仮説。
そんなどうでもよい仮説を自分はフラワーショップの友人に語り始めた。(つづく)