カラオケ料金の変化とフィリピンパブが下火にならないことの仮説を、花屋のオーナーでもある友人に話しはじめた。
カラオケボックスが出来てしばらくの間は、何人で利用しても一部屋でいくらという営業スタイルの店がほとんどだった。
自分が仕事関連の呑み会の二次会で久しぶりにカラオケに訪れた時、びっくりしたことを覚えている。大部屋に20人以上入り、皆で楽しんだのだが料金の請求が一部屋あたりではなく、1人あたりへと変わっていたからだ。
終電が気になりがちな、二次会では2時間ほどの滞在がいいところ。ほとんどマイクを握らなかった参加者もいたはずなのに、結構な料金を請求されたからだ。
カラオケボックスの利用料金の請求方法が変わったことが、自分がヒトカラに行くようになったひとつの理由でもある。
カラオケボックスの利用料金が割高に感じる酔っ払いたちは、あることに気がついた。もちろん自分もそのうちの1人。
カラオケボックスでお酒を呑みながら歌うよりも、フィリピンパブでマイクを握った方がお得感があることに気がついたのだ。
自分が住む地方のフィリピンパブは、一見さんであれば、ワンセット3,000円で遊ぶことができる店が多い。ハウスボトルであればお酒は飲み放題、カラオケもだいたい無料だ。
エキゾチックなフィリピン女性がカラオケに合いの手や拍手までして、気持ち良くさせてくれる。
他人がカラオケを歌っているときに退屈さを覚えても、店の女性スタッフと会話をすればよいのだ。ちょっとした、異文化交流。
男同士のグループでカラオケボックスに行くよりも、フィリピンパブに呑みに行ったほうがずっとマシな気が自分はしている。
その思いを話すと友人は納得してくれたようだった。だから流行るんだ、と友人は口にしたから。
自分のどうでもいい話を聞いている最中も、友人は作業を続けていた。
キャバクラなどの他の呑み屋さんは苦戦していることを友人は仕事柄、感じているらしい。友人は下戸でもないし、地元の商工会にも参加しているので、それなりの付き合いもあるはずだ。自分ほどではないが、たまにはそういった店に足を運ぶこともあるだろう。
若いころには、彼と何度かキャバクラやパブにも一緒に行ったことが懐かしい。
彼の作業が一息つくと、自分はあることをお願いした。ちょっとした花束を作って欲しいと。
ある呑み屋の女性に今年の誕生日、バースデーケーキをプレゼントしてもらったので、お返しに花を贈ることにした。お返しは何がいいかを本人に尋ねたら、花が欲しいと言われたからだ。
友人は少しニヤッと笑った気がしたが、了承してくれた。抽象的な言葉でしか花束のイメージを彼に伝えなかったが、すぐにガラスケースから花を選びだした。
贈る相手のイメージからピンク基調の花が似合うような気がしていたが、相手の写真を見せたわけでもないのに自分がイメージしていた花束に近づいていく。
来年こそ一緒に呑みに行きたいね、と友人は手を動かしながら言ってくれた。自分が有給休暇を取れば問題ないんだよね、と答えた。そうすれば、二人きりで朝までだって痛飲できるからだ。
そんなことを会話しているうちに、花束は完成した。柔らかなパステルカラーの色彩の花が基調になっていたし、その中にガーベラが入っていたのが印象的だった。
花束は赤のラッピングにピンクのリボンがゆるくかけられていた。まさにイメージ通りだ。お礼を言って店を出た。
友人の店から自宅まで、道路が空いていれば下道でも40分ほどで着く。助手席に乗せた花束に気を使ったせいか、いつもよりも丁寧に車を走らせた。
気を張っていたせいか、睡魔もまったく訪れてこなかった。
無事、自宅に着くと15時を過ぎていた。スキー道具や着替えなどの荷物を車から降ろすと、着替えてベッドに潜り込むと、すぐに眠りに落ちた。
父親が亡くなってからはなるべく、毎日曜日の夕食は弟と一緒に母親が居る実家を訪れて食べるようにしているからだ。
そのために夕方までの数時間、仮眠したかったのだ。
目が覚めると、まわりはすっかり暗くなっていた。18時を過ぎていた。今は、一番夜の時間が長い時期だろう。
着替えて、駅まで急いだ。自宅から実家までは車だと10分ほど、電車だと二駅離れている。
駅に着くと、ちょうど電車がホームに滑り込んできた。改札からホームまでの距離を考えると走っても間に合わないので、次の電車を待つことにした。
平日の朝は混み合っているホームも初冬の日曜日の夕方には、ほとんど乗車客が居ないこともあって、より寒さを感じた。
次の電車までは10分以上待たなければならなかった。しんとしたホームに電車のヘッドライトが近づいてきた。(つづく)