淡白マスヲのたんぱく宣言

淡白マスヲのたんぱく宣言 

40歳過ぎのオッサンの雑記。夜遊び、芸能ネタ、日常的なことから社会的なことまでを、広く浅く、そして薄い視点で毎日書くので気楽に読んでください。

小谷剛と『シェーン』と通りすがりの読者と

 見ず知らずの人と思いがけない会話を楽しむことができるのは、酒場で酒を呑む魅力のひとつだと自分は考える。まわりから遊び人と思われている自分の言い訳かもしれないが。
 そんな痛快な偶然、ちょっとした奇跡を経験できた昨夜。フリーター時代の友人2人と3軒呑み歩いたことで。

 自分以外の2人にはいくつかの共通点がある。2人とも女性にモテるのだ、知り合ったころから今でも。2人は結婚していることはもちろんのこと、結婚後も他の女性とお付き合いしているのだ。モテない星の下に産まれた自分としては、羨ましくて仕方がない。
 もうひとつは、フィリピンパブで呑むことが好きなことだ。昨夜も河岸を変えようとしたときに、フィリピンパブも候補に挙がったくらいだ。
 フィリピンパブで遊ぶことが今までに2回マイブームになったことはあるが、最近の自分は足が遠のいている。

 手羽先の唐揚げが有名な居酒屋で場を温めた後は、近所のラーメン屋に移った。そこの店の餃子が独特で美味しいとのことだったので。
 ただ、その店の営業は不定期かつ、人気があることもあって座れないことが多いことも、友人が教えてくれていた。
 店の前まで来ると店内は明るいが、入口の札が準備中となっている。勧めてくれた友人がゆっくりと引き戸を開けて様子を伺うと、営業していることがわかった。店主が札を営業中にすることを忘れていたようだ。

 座るとすぐに餃子と瓶ビールを頼んだ。餃子にはジョッキの生ビールよりも、瓶の方が似合う気が自分はする。
 この店の餃子は酢に好みでラー油と胡椒を落として食べるスタイルだった。味がしっかりとしているのに、角がなくまろやかな餡がパリッとした薄皮に包まれているのが絶妙だった。餃子は食べるのも作るのも厚皮派の自分であっても、美味しい以外の言葉をしばらくは失っていた。1粒食べるとすぐに追加をオーダーしたくらいだ。

 少なくとも今年食べた中では一番の餃子をビールグラス片手に楽しんでいると、1人の男性客が現れた。おそらく年金生活者だろう。自分たちもそれなりに酔っていたが、彼もお酒に呑まれていたのが、すぐにわかった。
 1人でお酒を呑みに来る酔っ払いの必殺技を彼はもったいぶらすに躊躇なく披露した。自分たちの話に入ってきたのだ。

 正直、最初は鬱陶しかったが会話を続けているうちに、次第に自分と会話が噛み合いだした。自分が趣味で小説を書いていることを話したことがきっかけだったと思うが、彼が小谷剛のことを口にしたのだ。自分はびっくりした。

 昔からの友人との会話でさえ話題にならない、地元が排出した芥川賞作家の名前を彼が知っていたからだ。彼も自分が小谷剛のことを知っていることに興味を持ったようだった。
 それから映画の話にも話題は変わっていき、小津安二郎監督や『シェーン』などについても語り合った。友人2人は自分より少し歳下のこともあり、『シェーン』を見たことが無いようだ。

 その店はラーメンもお勧めとのことだったので、自分は担々麺を食べた。塩ラーメンが美味しいことを友人は教えてくれたが、かなり酔っていたので素面の時に食べにくることを考えたのだ。舌が馬鹿になっていないときに、せっかくのメニューは味わいたいからだ。
 自分たちがラーメンを食べていると、家族連れ5人が入ってきたので、彼は席を詰めて自分たちと肩を並べるような形になった。そのせいか、彼がより饒舌になったので自分の箸はどうしても進まなかった。その様子を見た店の大将が彼を少し窘めてくれたので助かった。

 ラーメンを食べ終わると隣の店に河岸を変えた。店主はバーだと思っているようだが、どちらかというと自分は洋風居酒屋に近いと思っている。
 その店は独特の店で自分もそれなりに気にいっており、今までにも何度か訪れたことがあったが、いつも客はまばらだったが、昨夜は今までで一番の客の入りだった。給料日前の週末なのにも関わらず。

 自分たち3人はカウンターの角から順に座った。自分の隣には眼鏡をかけた男性がウイスキーをロックで呑んでいた。瓶に札がかけてあったので、おそらく彼のマイボトルだろう。
 彼とはなんとなく話すようになり、自分が友人2人に見せびらかすために持っていた同人誌に目を留めてくれた。自分の作品が載っていることを話すと、彼は今読みたいと言ってくれたのだ。もちろん嬉しかったし、全くの赤の他人に自分の小説を読んでもらったことがなかったので、新鮮な気分だった。しかも、自分の真横でロックグラスを傾けながら。

 彼越しに自分が他のお客と話していると、彼は同人誌を丁寧に閉じて返してくれた。ちょっとした感想も言ってくれたし、その感想の中に自分が作品を書いた意図のひとつが含まれていた。こんな経験はこの先もないかもしれない。

 彼とはその後少し話を続けたが、先に店を出て行った。時計を見ると日付が変わっていたのにも、その時に初めて気がついた。
 フィリピンパブ、キャバクラやガールズバーでお酒を呑むのもつまらなくはない。だが、それらの店では昨夜のような素敵な出会いはないだろう。