車両が停まると先頭車両に乗った。快速電車のスナップを撮りたかったのでホームの端に居たせいだ。
午前中の遅い時間ということもあってか、車内は閑散としていたので4人掛けのシートに座ることができた。
座って車窓を見ながら考えたことは、福知山線の脱線事故のことだ。JR西日本の快速電車というだけで、10年以上過ぎた今でも条件反射的に思い出してしまう。
JR東海圏内に住む自分にとっても、それくらいインパクトが強かった。犠牲者が多かった先頭車両に自分が乗ってしまったこともある。
あれから、JR西日本は変わったのだろうか。JR分割民営化は正しい選択だったのかを今でも時折、自分は思い続けている。
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気を紛らわすために、鞄から取り出したKindle Paperwhiteで本を読み始めた。いくつかの書籍データが入っているが、あえて緩い作品を選んだ。村上春樹著の『村上さんのところ コンプリート版』だ。
ある駅で電車が停車すると、Kindleから顔を上げて車窓を見た。その駅は芦屋だった。
芦屋駅を見たのは、おそらく初めてだ。
電車がホームから離れた後も、視線をKindleに戻すことはなかった。
進行方向から右手のボックスシートに座っていたので、見える景色は山側になる。山に向かって、高級そうな家やマンションを見ていると飽きなかった。
スマホを見ると、位置情報が大阪から神戸市に変わっていた。
次に自分の頭に浮かんだのは、阪神淡路大震災のこと。自分がかつて勤めていた病院、今回自分の仕事を紹介してくれた看護部長とも知り合った法人の院長兼理事長が、震災直後に『災害救助活動』をしたことを、ことある毎に聞かされたこともあるだろう。
ただ、そのころの彼の顔つきは写真やニュースなどの動画で見る限り、全く変わってしまっているが。
彼を時間の流れ以外の何が、変えてしまったのだろう?
芦屋から三宮、神戸と電車が進んでいくと、山側の景色も個性的な表情を見せながら変わっていく。
無機的な団地が見えると、ある短編小説のことを自然と思い出した。村上春樹の『めくらやなぎと眠る女』だ。
主人公が丘陵地にある団地の間を走って行くバスに乗るシーンがあるのだが、そのことを連想していた。
彼が産まれ育った街、神戸が否応なしに作品に影響するのは当たり前のことなのだろう。
須磨駅に近づくころには、左手に時折海が見えるようになってきた。村上春樹はこの海を見たり、泳いだりしたかもしれないと、思いを馳せていた。
須磨駅を過ぎると、次はいよいよ目的の垂水駅だ。(つづく)