約束を守らない人間が嫌いだ。かといって、自分がそれほどきっちりしている人間かを問われると、正直微妙な気はする。
自分なりに一度した約束は果たすようにしているつもりだが、まわりは自分のことをどう思っているのだろう?
昔はそうではなかったが、最近は時間にルーズな人間も気になって仕方がない。
最近、自分との待ち合わせの時間に遅れた友人が2人いる。そのことがどうしても許せなくて、どちらもそれからは会っていないし、連絡も取っていない。
付き合いが長いからというだけで、何もかもが許されると思っている感覚が、どうしても最近の自分には理解できない。
彼ら2人は自分ではなくて、誰もがうらやむ女性との待ち合わせでも同じように遅れたのだろうか。自分の推測はNoだ。
昔、妻に次のようなニュアンスのことを言われたことがある。あなたの辞書には社交辞令という言葉はないのかと。自分の答えはYesだ。
産まれてからこの方、お人好しのせいか相手が社交辞令として口にした言葉を真に受けてしまい、後で嫌な気持ちになることは今までの人生でしょっちゅう。
そうは言っても、それなりに痛い思いをしたので少しは用心できるようになった。
おかげでそういったことは減っていたが、ここ数ヶ月で2回も社交辞令に巻き込まれてしまった。
その2回はどちらも酒の席での話なので、真に受けた自分が馬鹿だったと言われれば、反論しようはない。ましてや、その2回とも同じような約束だったし。
ガールズバーで呑んでいるときに、それぞれ別の女性とある同じ約束をしたのだ。その約束とは、それぞれの女性のポートレートを撮らせてもらうことだった。
1人とは撮影場所どころか、撮影日まで決まっていた。準備のために撮影場所まで前ロケに行っていたのに、体調不良のために直前にキャンセルされたのだ。
体調が整ったら相手から連絡をもらうことになっていたのだが、もう1か月近く経つが、なしのつぶてだ。
もう1人とは自分の友人も一緒に撮影することになっていた。そのために、わざわざグループLINEまで作ってコミュニケーションを取れるようにした。
モデルを勤めてくれることになっていた女性のスケジュールがはっきりしたら連絡をくれることになっていたのだが、先月の20日過ぎに自分が送ったメッセージには既読すらされていない。
彼女たちとの約束は、彼女たちからしてみればビジネストークだと思って、自分自身を納得させようとしているが、どうしても納得できない自分がいる。相手とは20歳以上離れていることを鑑みても、大きな心にはなれない。
ガールズバーやキャバクラなどに足が遠のいている原因はいくつかあるが、そのうちのひとつは間違いなく彼女たちの社交辞令だ。
それによって、こちらは時間とお金を他へ回せているので、プラスな面も多々あるはずなのだが、どうしても釈然としなかった。
そんな心模様のまま、先週の日曜日にあるポートレート撮影会に臨んだ。その撮影会には以前に別の撮影会で知り合った、年上の男性カメラマンが参加していた。
そのカメラマンが別のカメラマンと話している内容を知って、多少は自分の気持ちが収まった。
彼はあるモデルさんに個人撮影を申し込んでいたらしいが、2回連続でドタキャンされたらしいのだ。
散々嘆いていたが、その気持ちは自分にもわかる。撮影会ではなくて、個人撮影であれば準備もそれなりにしていたはずだし、良い作品が撮れる確率も上がるので、期待も大きかったはずだから。
それに比べれば、素人の女性にモデルの約束をしたことを水に流されたことなんて、小さいことのような気がした。
そもそもそんな約束をした自分が、間違っていたと思えてきたほどだ。
他のカメラマンの愚痴で慰められてから数日後、社交辞令が好きな女性が働いているガールズバーに足を運んだ。ある意味では全く懲りていない自分。
その日は自分が通った高校の後輩の誕生日だったという理由はあるものの、他人から見れば何も学習していないと思われても仕方がないだろう。
形式上、誕生日である後輩を指名したが、他の客と指名が重複していたので、自分に着くことはほとんどなかった。
代わりに他の女性が自分に着いたのだが、その女性は自分のスマホを差し出して、自身が写っているポートレートを見せてくれた。そして、次のように言った。ポートレートを撮って欲しい、と。
流石に今度ばかりはすぐに頷けなかった。こちらも同じような思いを三度もしたくないからだ。その日はお茶を濁したまま帰った。
だが、後で気になりだした。彼女の申し出こそ、本気だったら悪い気がしたからだ。
昨日の夕方、ある男性からSNSにDMが送られてきた。送り主は先日、自分が初めて男性ポートレートを撮らせてもらった際にモデルになってくれた人物だった。
彼が働いているスナックで、彼のポートレートが話題になっているらしく、女性のスタッフへの撮影依頼がDMの文章に綴られていた。中でも店のママが一番撮って欲しそうだと。
彼からの依頼には二つ返事で了承した。彼には撮らせてもらった恩と実績があるからだ。
自分としては貴重な経験になったが、今見返すと彼のポートレートは反省点が非常に多い。例え酔った状態で撮った写真であっても、結果に対して言い訳をしては駄目だ。
そんな写真でもお店の他のスタッフからみれば、気になる写真になっているのであれば、カメラマン冥利に尽きるのだが、どうだろう?