土曜日の夕方、トップカメラの撮影会で加藤凪海さんの写真を撮って帰宅すると、すぐにまた家を出た。自分の車で西へ向かった。
目的地は奈良県天理市。日曜日に危険物丙種取扱試験を天理大学で受検するために前泊することにしていたからだ。
天理市での受検を決めた後、しばらく悩んだ。受検開始が9:30からだったので、当日の朝移動するか前泊するかを。
同じ関西でも新幹線の駅が最寄りの場所であったならば、おそらく当日の朝に移動しただろう。だが、受検場所が名古屋からはアクセスの悪い、奈良県天理市だったので前日入りすることにしたのだ。
21時過ぎに宿にチェックインすると、値段相応の部屋だった。部屋に入ると少しのカビ臭さと煙草の匂いが入り交じっていた。部屋に荷物を置くと、夕食を食べがてら宿の付近を散策することにした。
宿の従業員に尋ねると、天理駅までは歩いて10分ほど。そのあたりまで足を伸ばせば、飲食店がいくつかあることを教えてくれた。
宿から表通りを駅に向かって歩くと、通り過ぎる車も人も週末の22時前とは思えないほど少なかった。途中にコンビニが一軒あったが、駐車場に停まっている車はまばらだった。
それでも次第に駅に近づくにつれて、車も人も多少は見かけるようになりだした。
駅らしきものが見えだしてから、いくつかの横断歩道を越えて駅前のロータリーに辿り着いた。天理駅は近鉄とJRの共同駅だった。人影が全体に少ないせいか、ロータリーが広く感じた。
駅周辺では最近、関西を旅すると目立つ外国人旅行客をほとんど見かけなかった。代わりに若者がいくつものグループに分かれて、たむろしていた。
すると、店頭で女性がタコ焼きを焼いている店を見つけたので、その店の扉を開けた。
カウンターに赤ら顔の男性2人が座っていた。自分もカウンターに座ると、先ほど店頭で見かけた女性が注文を聞きにきたので、ビールときゅうりの箸休め的なもの、そしてタコ焼きを頼んだ。無料トッピングとタコ焼きの味付けを聞かれたのでトッピングは全て、味はお店お勧めの味噌味をお願いした。
自分も含めて友人たちの中にも味噌カツよりもカツをソースで食べる方を好んでいる人は何人もいる。
きゅうりをアテにビールを呑んでいると、タコ焼きが運ばれてきた。熱いうちに口へ運ぶと、見事に期待を裏切られた。予想以上に美味しかったから。たこ焼きに甘辛い味噌がこれほど合うとは想像できなかった。
6個入りを注文していたのだが、8個入りにすればよかったとすぐに後悔したほどだ。
自分がタコ焼きを味わっていると、カウンターに座っている2人の男性客が店頭でタコ焼きを焼いていた女性に話しかけていた。
場所は変わっても男はどこでも大差ない。ましてや酔っ払った男のすることなど。
3人の会話を聞いていると、彼女は天理大学に通っていることがわかった。
翌日、自分に降りかかることを予見できていれば、彼女に大学のことをもっと聞いたはずだ。誰もが未来のことはわからないので、仕方はないが。
たこ焼きの味を愉しんでいると、2人の客は帰っていったが、入れ替わりに数人の若い男性客が入店してきた。
ビールを空けるとハイボールを注文した。ハイボールを呑みきったタイミングで店を出た。
宿に戻る途中、先ほど見かけたコンビニへ立ち寄った。缶チューハイとペットボトルのお茶、そして明日の試験のために消しゴムを買った。
部屋に戻ると音を聞くだけで古くささを感じるエアコンが、うめいていた。着替えを持って浴場に向かい、シャワーで汗を流した。
さっぱりとした気分で部屋に戻ると、先ほど買った缶チューハイのプルトップを開けて喉に流し込むと、こたえられなかった。
危険物丙種試験の過去問を印刷して持ってきていたが、それを見るような気分ではなくなっていた。
TVを点けてぼんやりと見ていたが、特にひっかかる番組もなかったのですぐに消して、残りのチューハイを呑みながら考えていた。
奈良に泊まったのは、これで何回目だろうか。最後に泊まったのは、何時だったのだろうかなどを。
最後に泊まったのは、確か娘が産まれる前。奈良駅前のホテルに妻と泊まったことをなんとなく憶えている。
宿泊した日か翌日かは憶えていないが、西大寺と秋篠寺などを参拝したことも。
どちらの寺も自分だけの1人旅では、おそらく訪れることはなかっただろう。
そんなことを思い返しているうちに、チューハイを呑みきったので、眠ることにした。
歯を磨いて、毛羽だった畳の上に自分で布団を敷いて。灯りを消して目を閉じると、エアコンの音が余計に気になった。（つづく）
