今の現場オフィスで作業するのは、今日を入れてもあと七日。泣いても笑っても寝ても覚めても、あと七日だ。
世界のTOYOTAについて愚痴をこぼすことも、嫌みを綴ることもあと数日しかできない。
それならば面白おかしく、おちょくったことを書いてみたくなった。
優良な企業だけあって安全意識が高いTOYOTA。系列会社の従業員だけでなく外注のエンジニアたちにも、自分たちが正しいと判断している様々なルールを押し売りしている。
それらを買わされた自分としては閉口するものばかりだったが、そのうちのひとつを紹介したい。
それは、ポケ手なし。
最初、自チームのリーダーから口頭で知らされたときには、訳がわからなかった。活字にすれば『ポケ手』の部分は二つの単語の省略なので、多少は伝わりやすいかもしれないが。
その二つの単語とは、『ポケット』と『手』。
オフィスビル内の廊下や階段を歩くときにはポケットに手を入れてはいけないというルールのことを指す。
今時、中学校や高校の校則でも見当たらない気はするが、実際はどうだろう? 元来、自分にはポケットに手を入れる習慣がなかったので、そのルールを知った当初は鼻で笑っていたが、それもしばらくの間だけだった。
気がつくと時々、ポケットに手を入れている自分に気がついたのだった。
ここ何十年以上、そんな習慣はなかったはずなので、その原因を自分なりに分析すると、二つの仮説が思いついた。
ひとつは、本能的に身を守っているのではないかと考えた。ポケットに入れることによって、システムエンジニアにとって大事な手を無意識に保護しようとしているという仮説だ。
もうひとつは、反射的に人に手を出すことがないように、無意識に手を隠しているのではないかという憶測だ。
TOYOTAに関わる仕事は何かと理不尽なことが多いために、ほとんどのエンジニアは平常心を失いがちだ。
簡単に手をだすことがないように、また、その行動を遅らすためにも本能が手をポケットに入れさせているのではないかと考えている。
どちらもかなり乱暴な仮説ではあるが、数日が過ぎてこのプロジェクトを離任した自分がポケットに手を入れることを続けているかが、今から興味深い。
予想では、何かの憑き物が落ちたように子供っぽい癖はなくなるのではないかと思っているのだが、果たしてどうなっているだろう?