昨夜、眠ろうと寝室のベッドに入ると、すぐに物音がしたのが気になった。
自分の寝室は二階。扉が閉まったような音が下の方から聞こえてきたからだ。
気が小さいことは自分でもわかっているつもりだったが、自身の他の内面に気がつくことができた。
ここ最近、いつ死んでもいいと勘違いしていたことに。
プライベートではある程度、したいこと、しかったことができているとういう手応えはある。
一方、本業のシステムエンジニアの仕事にはやり甲斐が全く見いだせないばかりか、職場の人間関係に気を使いすぎてただただ疲れるばかり。
その影響がプライベートにも及んで、他人に会うのがすっかり億劫になっているからだ。
自分の人生はある程度は楽しんだ。特にここ数年は。
今のままに生きながらえても、自分自身としても他人から見ても、価値がなくて無意味だといつの間にか考えていた。
だからといって、自分で命を投げ出す気にはなれないでいた。最低でも母親を悲しませることになると感じていたからだ。
いっそのこと心筋梗塞などでぽっくり逝くのも悪くないと、考えることもあった。
だが、心底では別だったことに気がつけた。寝室まで聞こえた物音ひとつで。
異音ひとつで、自宅内に何者かが侵入してきたかもしれないという妄想が広がった。知らない誰かが浴室から侵入したというストーリーが始まり、最後は自分の命が奪われるところで、ジエンド。
しばらくは布団に包まって縮こまっていたが、意を決してベッドを出た。
物音を立てないように寝室の扉を開けて、廊下の照明を点けた。吹き抜けになっている階段をゆっくりと見下ろしたが、怪しい気配はなかった。
どうやら自分の思い過ごしだったらしい。
今朝になって一階に降りても、部屋が荒らされた形跡はなかったからだ。
すぐに、いつものようにせわしく出勤するリズムに戻った。 他人が知ったら完全に笑い話。
だが、自分自身では真剣だった。他人から殺められるというリアリティーが、あることを気がつかせてくれたから。
当たり前のことなのかもしれないが、他人の暴力によって命を落としたくはないと思えた。
また、事故や病気が原因であれば、今すぐに自分の人生が終わることを受け入れることができるかまで、広げて考えていた。
結論は改めて書くまでもないが。