淡白マスヲのたんぱく宣言 

アラフィフのオッサンの雑記。夜遊び、芸能ネタ、日常的なことから社会的なことまでを、広く浅く、そして薄い視点で書くので気楽に読んでください。

長い間お世話しました

 10年以上続けてきた副業先を今日、卒業した。自宅から自転車で10分ほどのラーメン屋でのアルバイトを。
 最近は自転車で通勤することが多かったが、今朝はマイカーを選んだ。天気予報で帰りの時間には雨が予想されていたし、自転車だと花粉を多く浴びてしまうからだ。

 いつものように9時前に出勤して、タイムカードを打刻した。働きだした10年前から変わらず紙製のカードに。名古屋市内に複数店舗展開し、TVCMを流すほどの資本があるのにも関わらず、現場のほとんどの作業は昔ながらのままだ。そんな環境にはデジタル式のタイムカードは不似合いなのかもしれないが。

 引き続き着替える前に、いつもと同じ作業を行った。店外にある冷蔵ストッカーから大量のもやしを店内の冷蔵庫に運んだ。週末の土日はだいたい、一袋数㎏あるものを40個前後運ぶことになる。
 もやしを運び終えるとジャーの中に残っているライスの量を目分量で確認してから、必用な量のお米を研ぐのだ。昨日は2㎏を2回、今日は1.5㎏と2㎏の2回。

 その間に餃子を焼く鉄板に火を入れて熱し始めてから、店の2Fにある更衣室で着替える。こびりついた油汚れを落とすのには、鉄板を温める必用があるためだ。
 着替えて降りてくると、炊飯釜に流水を流し込んでいる水を止めて釜を炊飯器にセットし、スイッチを入れる。炊飯器はガス釜なので、青い炎が点いているかを目視しなければならない。

 そのころには温めていた鉄板には充分に熱せられているので、専用の洗剤を使用しながらこびりついた汚れを浮かび上がるように、金属たわしをコテで抑えながらこすり洗いをする。
 ある程度汚れが浮かび上がったら、熱いままの鉄板をシンクに移して、細かい汚れと鉄板の蓋も洗っていく。

 自分が働き始めたころには完全に手洗いだったが、昨年に業務用の食洗機が導入されたので、この作業は多少楽にはなったが。
 ある程度の汚れが落ちたタイミングで食洗機に放り込めば、濯ぎも兼ねて仕上げ洗いもしてくれる。

 その間に、餃子を焼く鉄板をセットする周辺あたりとその壁面、天井と換気扇まわりの汚れを雑巾で拭き上げるのだが、180㎝近い自分の身長のおかげで多少は他の人よりは楽ができたと思う。
 拭き上げた後に、餃子の鉄板とその蓋をセットする。

 開店前の仕事の中では餃子の鉄板清掃が、一番手間がかかる。汚れがひどい時には時間だけでなく、磨き上げるために力もそれなりに使う。
 ここまでの作業を1時間くらいで行わなければ、後の仕事の時間配分が厳しくなってしまう。

 10時ごろになると、炊いていたご飯が炊き上がってくるので、ジャーに移さなければならない。昨日の残りがあれば、炊き上がったばかりのご飯の上に載せて。
 そしてすぐに炊飯釜を洗って、2回目の米研ぎを始めなければならない。

 2回目のお米を研ぎ終わり、流水で糠を流しているうちにライスが注文されたときに付ける、沢庵を切り分ける。大根一本ごとつけ込まれたものが納品されるので、それを水洗いする。その後は縦に裂くように切り分けて、かまぼこ状の形状に5ミリ㎝間隔でカットしていくのだ。

 店内の飲み物ストッカーの在庫を確認し、足りない飲み物があればそれらを補充しなければならない。
 ちなみにラーメン屋で提供しているドリンクは瓶ビール、ノンアルコールビール、日本酒の一合瓶にコーラだ。一番需要があるのはビールなので、ビールのストック量には気を使う。特に夏の時期には。

 ここまでの作業を10時30分くらいまでには行わなければならない。10時30分過ぎには社員が賄いのラーメンを作ってくれるから。
 朝の開店準備作業中も、慣れているメンバー同士だと皆口も軽く和気あいあいと作業しているが、賄いの食事中は従業員のほとんどのメンバーの口がより軽くなる。
 店の営業時間は11時からだから、30分ほどは皆がほっとできるひとときだ。

 自分も最後の賄いを食べながら、あることを他の従業員に話した。店の責任者である人物に、挨拶をすることに抵抗を感じてしまうと。長い間お世話になりました、と口にすることを。
 すると皆もその気持ちを理解してくれた。ある人物は次のようなことを提案してくれた。言い間違えたフリをして、次のような言葉を口にすればと。長い間お世話しました、と。
 鈍くて自分に都合の良いようにしか理解しようとしない、店の責任者はそのセリフにさえ気がつかないかもしれない、と。

 自分にとって働いた最後の営業時間は、ここ最近の中でも忙しいほうだった。花粉症に苦しんでいることもあったし、自分も多少は感傷的になっていたせいか、いつも以上に疲れを覚えた。
 自分のアルバイト時間が終わる14時の10数分前に、店の責任者が出勤してきた。彼が着替えて厨房に入ってきた時も、従業員全員がバタバタしていた。そんな最中に自分は彼に対して口にした。長い間お世話になりました、と。
 お世話になった自覚などほんの僅かで、それ以上にお世話してやったと思っているのにも関わらず。この10年で自分が随分大人になることができたと、思えた瞬間だった。