車に乗ることがめっきり減っている。
最後に給油したのはいつだろう? 少なくとも先月からは一度も給油していない。
天気が悪くなければ散歩をしているこのごろ。だが、歩いて行ける範囲はどうしても限られてしまう。
散歩を始めたころは自宅からほど近いところに流れている一級河川の川沿いを歩くことが多かったが、最近はコースとして選ぶことが減っている。
人が多いこともあるが、視界の広過ぎて自分の好みに馴染まないことに気がついた。
最近、自分がお気に入りの散歩コースは金城大学の周辺。カトリック系で幼稚園からの一環教育の学園として、地元では有名なお嬢様学校だ。
ただ、自分はこの学園に対して変に意識して生きてきた。高卒であるために学歴のコンプレックスだけでなく、お嬢様という響きをフラットに受け取ることができない。
そのために自宅から近いのに大学の前を通ることは滅多になかった。
だが、そのブランドに対してほのかに憧れもあるのか、スナップ写真の遠景に大学の建物の一部を収めたことは何度かある。 今日も大学の前を通り過ぎた。
大学の最寄りの駅に人気はなく、駅前の理容店と中華料理屋はシャッターが降りていて、張り紙がしてあった。
五月六日までの休業することが書かれていたが、それ以降はどうなるのだろう? 月末まで休業するのだろうか。
坂を上がると緑に囲まれた学び舎が見えてきた。
道の右側には薬学部の学生のリクルートを目的にした看板がいくつも並んでいた。
大学の正門に差し掛かっても人気はない。時折聞こえてくる鳥の声が閑散さを引き立てていた。
さらに歩くと、自宅近辺では見ることがないような家屋が目立ってきた。どの家も庭先が手入れされていて、停めてある車に軽自動車はない。
この辺りは翠松園と呼ばれている高級住宅地。どうして金持ちは高い所に住みたがるのだろう?
近くには八竜緑地と野鳥観察の森があり、ちょっとした森林浴も味わえるのだが、訪れる人は意外に少ない。
ちなみに、野鳥観察の森はフェンスに囲まれているだけでなく入口も制限されていて、ペット同伴では入ることはできない。生態系の保護のためのようだ。
地元の人たちに今日はやたらと声をかけられた。ほんの挨拶ていどだったが、誰もが感じがよかった。
この辺りを散歩し始めたころと違って、高級住宅地内を歩くのに慣れてきたので不審者感が薄らいでいたせいだろうか。
もっと、自分がこの辺りの雰囲気に馴染むようになったら、素敵な貴婦人にお茶でも誘われるようなことが起きたりして……。