五十肩からの不快感は右肘、右手の小指だけで収まらず、ついに背中まで影響が現れた。
自分が通い始めたばかりのカイロプラクティックは、新型コロナウィルスのために診療休止中。
自宅近くにあり、これまでに何度か通院していた整骨院に行くことも考えたが、気が進まなかった。院長の診療にムラがあるのが、近頃は気になっていたから。
このまま何も手当をしないことも考えたが仕事をしていても集中できないので、ある鍼灸整骨院に予約を入れた。自宅から車で15分圏内に何件もある、チェーン展開している鍼灸整骨院に。
整体やカイロプラクティックならいざ知らず、接骨院や整骨院が予約制なのは、初めての経験だった。 仕事を終えて夕暮れの中、自転車を漕いだ。陽は確実に長くなっている。オートの自転車灯は点灯しなかった。
受付で自分の名前を名乗りながら保険証を差し出すと、代わりに問診票を受け取った。
初診の時にはどこでも書かされる問診票を書くのが、最近は億劫に感じるのは、歳のせいなのだろうか。
しばらく待つと診察室に通された。
年の若い柔道整復師が記入済みの問診票を見ながら、自分の症状や原因などを見立てていく。
身体が硬いとか姿勢が悪いなど、自分でもわかりきっていることを指摘された。
これでもここ数年は自分なりには気をつけているつもりだが、効果は現れていないらしい。
50歳に手が届くところまで来ているので、身体にガタがきても仕方がないとは思う。
だからこそ、痛みや苦痛の抜本的な解決を図りたいと強く考えて、鍼治療を受けることにした。
酷い五十肩には鍼が一番だと聞いたことがあったから。
背中、右肩から右肘を経由して右手の手首まで鍼が打たれた。背中にはそれほどの痛みを覚えなかったが肩と手首にはそれなりに痛みが走った。
目を瞑っていたこともあって、自分の身体に何本の鍼が刺されたのかはわからなかったが、そのまま電気が流された。
背中は気持ち良くて楽になったが、肩と手首には痛みや痺れが走った。
電気が流されたのは10分間だったらしい。終わるころには久しぶりに変な汗をかいたが。それなりの効果はあったと思う。帰り道のペダルが幾分、軽く感じたから。
自分が小学校へ入学する前後だったと思う。
下町のある鍼灸院まで父親に連れられて何度か通ったことがあった。
父は車の免許を持っていなかったので、電車と市バスを乗り継いだことを何となく覚えている。
産まれて初めて見た視覚障害者。初めての鍼治療だったが、子供だった自分は柔軟だったのだろう。すぐに慣れた。
治療してくれた鍼灸師は男性で今の自分くらいの年齢だった。
彼の腕は確かだったのだろう。彼の鍼を痛いと思ったことはなかったし、通院した回数も少なかったから。
親は子を可愛がるのが当たり前とはいえ、評判の良い鍼灸院を人から聞き出して、通わせてくれた両親のことを思った。初めての電気鍼の治療を受けた後に。
そんな両親の気持ちに感謝しながら、今夜は筆を置きたい。
はっきりとお礼を言えていないし、これからも上手く言えないだろう、きっと。