さきほど、エレベータに乗ろうとしたら先に乗っていた人間に閉められた。外国人ホステス風の女性と一緒に乗っていたおじいちゃんに。
おじいちゃん曰く、『開』ボタンと間違えたとのことだが、自分は疑っている。
二人でいることが似合っていた彼らは、自分よりも先にエレベータから降りてカラオケルームに消えていった。おじいちゃんは彼女と一緒にいるところを、誰からも見られたくなかったのかもしれない。
府中駅近くの雑居ビルの夕方の一コマ。自分が住んでいる名古屋だけでなく、地方都市でもありふれていそうな光景だった。
サラリーマンを卒業してからは刺激的な毎日が続いている。サラリーマンのときとは違ったストレスを受けてはいる。ここ数日、胃が痛くてボリュームのあるものを食べるとお腹がはち切れそうになるのは、新しいストレスによるダメージを身体が受けている証拠なのかもしれない。
それでも、以前のような社畜に戻りたいとは思わなくなった。
先週から社畜を卒業した自分は大手金融機関のシステム子会社の新入社員研修を手伝っている。他の講師5人と60人弱の受講者を担当している。
受講生たちは会社の方針で一日おきに出勤と在宅を繰り返している。出勤しても、在宅でも学習スタイルはeラーニング。講師とのやりとりはオンラインだ。
自分の目の前に座っている受講生に指導したりするときも互いにヘッドセットやイヤホンをつけて、パソコンのカメラ越しだが違和感はそれほどないし、彼らが作ったプログラムをチェックするのはかえって都合がよかったりもする。
遠近両用メガネが欲しくなりはじめた自分にとっては、その方が見やすいからだ。
自分ともう一人の講師が着任したのは先週の月曜日。四月からそれまでは先に着任していた4人が彼らの講習を担っていたようだが、なかなか大変だっただろう。
それなりの会社だから新入社員の経歴はそれなりのものだろうが、彼らの学力や講習に対するモチベーションはかなりの差があるからだ。
60人の中に数人、イレギュラーな経歴者がいる。親会社からの出向者だ。しかも、全員が新卒二年目の社員。
他の受講生から見れば一年先輩、しかも親会社で採用された彼らをどのように見ているのだろう。
彼らをそのように立場に追いやった会社のイメージは急降下。もともと、金貸しなんて仕事は昔から好意的に思えていなかったのに。
そんな環境にも関わらず、二年目の彼らは前向きに頑張っているように思う。たった一人を除いて。
一人の男性だけ、元気もなく言葉を口にしているのを自分は見たことがない。
自分が府中にいるのは金曜日まで。彼が話す姿をそれまでに見ることができるだろうか。