今の現場で自分が参加しているチームには、業務経験がほとんどない20代中頃のエンジニアが男性二人、女性一人が配属されている。
彼らはこれまでの人生で、他の業種で働いていたらしい。
彼らは今の現場で手がけることになっているソリューションの知識を、座学でしっかりと学んだようだ。
そのために、彼らに自分が助けられるシチュエーションはこの先、十分に考えられるが。
そんな彼らを見ていると、昔の自分を思い出した。30歳までは他の業種で働き、ITについて素人だった自分が今の業界に飛び込んで、もがいていたころを。
自信があったところと、無いところの差が激しかったのを他人から見透かされたくなかったせいか、必要以上に尖っていたような気もする。
三人の中で、そんなところまでもがそっくりな男性エンジニアが一人いる。メガネをかけて理屈っぽいところまで、昔の自分に似ている。
好きな女性のタイプとモテなさそうなところも。年令を考えると独身であってもおかしくはないが、女性の影を感じられない点も。
20代中頃は何かと投げやりになっていたし、何にでも突っかかっていった点も、痛いくらいシンパシーを感じてしまう。
彼が今、職場で夢中になっている女性を知っている。というか、気がついてしまった。彼女の前では一時、自分も男性であることを意識させられたが、彼の態度を見て控えるようになった。彼の視線があまりにも怖かったからだ。
彼が必死に視線を送っている女性は、自分と彼から見ると元請け会社のプロパー社員だ。年令は彼とほぼ一緒だが、業界のキャリアとITに関わる知識がかけ離れている。
ただ、恋愛においては理屈が通らないことや奇跡が起こりうることを散々見てきたので、二人が男女の関係になる可能性がゼロだとは思わないが、今のところは厳しい気がする。
同じチームには彼女と同期のプロパー社員が居るからだ。同期の彼は、仕事もそれなりにできてスマートなだけでなく、自分と似ている彼よりも外見もイケてるからだ。
そんな彼に自分の中でニックネームをつけた。そのニックネームとは『マスヲJr.』。時折、昔の自分をどうしても彼に見てしまうからだ。
と言っても、彼のことを好意的に見ている訳ではない。というか見える訳がない。そのころの自分が嫌いだからだ。
そんな嫌いな自分を脱ぎ捨てるために、なんとか今までやってきた。
自分にそんな風に思われているなんて、彼は知る由もないだろう。