今一緒に働いている外注のエンジニアで一番大人だと思っている人がプロジェクトを離任することになるらしい。マスヲより後に着任したのに今月末までのようだ。
マスヲが彼を大人だと感服したのは先日での会議の席だった。会議の主題はプロジェクトの進捗についてだった。
てっとり早く言うとプロパー社員が外注にもっと残業や休日出勤をしろと激を入れるのが目論見だと感じていた。
1人ずつ外注が今の進捗状況と今後の見通しについて順番に問われた。
外注のほとんどは相手の工数見積もり不足が原因だとわかっているし、プロパーでさえそれは瑕疵だとうっすらとは感じていたはずだ。
30代までだったらそう言った場でも正論を持って相手がお客であっても議論を戦わせていたが、最近はほとんど思っていることを言わない。
本当のことを言っても相手の気分を害するだけで、向こうに問題点があったとしてもほとんどの場合は改めてくれることはないからだ。ただ徒労感を感じるだけだ。
マスヲ以外のエンジニアも1人だけがさりげなく時間が足りないことを言ったのだが真剣に取り合ってもらえなかった。
大人の彼の番が回ってくると彼は話し出した。話しているのを聞いたことがなかったので声質も改めて認識したほどだ。
彼は自分が担当になっている作業をすべて洗い出してその作業にかかると思われる時間を根拠に基づいて計算し、相手側が工程表上で引いてあるスケジュールと照らしあわせて説明した。あきらかに工数不足のスケジュールであると。プロパー側はそれについて反論できなくなってしまった。
むかしのマスヲと違うのは感情に流されることなく、淡々と事実と事実に基づいた考えのみを理論的に話していたことだ。
彼はマスヲよりは年長だとは思うが、それでもおそらくは4、5歳ほどだろう。だが、それ以上に大人に見えた。
彼の発言のあとは会議に空白の時が訪れた。しばらくの間が空いた後、あるプロパーが次のように言葉を継いだ。
そうは言っても………、と。
その先の展開は相手の思っているような方向になっていき、マスヲも先週の3連休中2日出勤したし今週末もおそらく土日の両日ともに何時間かは出勤することになりそうだ。
正論を言った大人の彼は今月末で去ることになり、天の邪鬼でしかも横柄なマスヲは来月からも残ることになっている。プロパーからみれば子供っぽいマスヲの方が御しやすいということなのだろう。