昨日の仕事帰り、繫華街を通り抜けて駅まで向かって歩いている途中、ふと切なくなった。
秋の終わりというか、クリスマスの足音が聞こえ始める初冬の夜は、人を寂しくさせる力があるのかもしれない。
今までの人生で一番最後に好きになった人のことを、いつの間にか思い出していた。その女性と最後に待ち合わせをして、会うことができなかった店のことも。その店とは、HARBSの栄本店。
小腹が空いていたし、リッチなスイーツも最近は食べていないことを思い出し、そのまま寄り道することにした。
店内に入ると、店員にお持ち帰りかを尋ねられた。当然だろう。平日の夕方にオッサン一人が店内でお茶をしながらケーキを食べるとは、普通の店員なら考えないだろう。ましてや、お茶とケーキで1,500円はくだらないようなお店では。
一人だが店の中でお茶を飲みながらケーキを食べたいことを告げると、店員が店の奥側まで促してくれ、好きな席も選ばせてくれた。自分は表通りが見渡せる窓側に座った。
水とメニューを店員が持ってくると、すぐに自分は注文を決めた。洋梨のミルフィーユとアールグレーを注文した。コーヒーではなくて紅茶を頼んだことが、自分でも意外だったが、洋梨のミルフィーユにはコーヒーよりも紅茶の方が合うと思ったし、胃が少し疲れている気がしたからだ。
ケーキが来るまでの間、タラレバを考えていた。もし、あの時、彼女がこの店に来てくれたとしたら、と。彼女はスイーツと飲み物は何を注文したのだろう? それ以上に妄想が進む前に、店員がミルフィーユと紅茶を運んできた。
ミルフィーユは見るからに、HARBSらしいボリュームだった。だが、甘さは抑えてあるためか、どんなケーキでも意外と全部食べられてしまうのだ。
洋梨のミルフィーユも食べやすかったし、家以外で久しぶりに飲んだ紅茶も味わい深かった。 平日、しかも月曜日の夕方にいきなり非日常的な時間を味わっていたら、スマホに電話がかかってきた。その相手は副業先で知り合ったプロカメラマンだった。
彼は自分の電話番号を職場で他の同僚から聞いたこと、先日のトップカメラでの撮影会で会ったことと、その際に時間が無かったせいで先に失礼してしまったことを皮切りにいくつかの話題を口にした。
その中でも自分が一番興味を持ったことは、自分の自宅近くに住んでいる同僚のカメラマンが正社員になるということだ。
大学まで行って写真を学んだ人間があんな環境で正社員になることが、自分には全く信じられなかったからだ。
店を出るときにミルフィーユが美味しかったと店員に伝えると、明日までの販売であることを教えてくれた。
当たり前だが季節は移ろっていく。もちろん、人もずっと同じところには居られないだろう。
それでも、自分の居場所はもっと考えたらと、他人のことながら思わず何かを言いたくなった夜だった。