三月二十八日にはどんな気持ちになっているのだろう?
前日に灯油の巡回販売をしているうちに、だんだんとそんな気分になってきた。
何事もなければ、三月の最終日曜日でローリー車の運手席に座り、ポリタンクを探すことも無くなるからだ。
今の副業を初めてからは日曜日以外にポリタンクを意識することもなかったが、最近は道に置かれていると気になってしまう。
一月も終わりなので、灯油の巡回販売もあと二ヶ月。昨年の十二月から始めたので、約束した期間のおよそ半分が過ぎた。
自分が担当しているエリアのことはそれなりに詳しくなってきている。そのエリアを一歩でも出ると全く土地勘は働かないが。
土地勘がつくとハンドルを握っていても、だいぶ余裕が出てくる。
呼びかけてくれているお客のことを見逃すことは少なくなってきたが、まだまだ確実ではない。昨日もあやうく、お客の声に気がつかないで、前に進んで行こうとする一幕があった。
暖かい日ばかりが、当たり前のように過ぎていく今冬。そのせいか、自分の同僚たちの灯油の売れ行きもイマイチのようだ。
自分の上司である所長も次のような言葉が口癖になっている。暖かいから仕方がないですよ。
確かに明日明後日、近未来の天候のことは、自分たちの微力ではどうしようもないだろうが。 それでも昨日、自分の灯油の売上げは今までで一番の数字。1,977ℓ。あとポリタンク一個と少しで2,000リットルだったのだ。
正直、朝のペースだと2,000に届きそうな勢いだったのだが、後半になるにつれて失速してしまった。
販売を終えて営業所まで戻る途中、ローリー車の挙動がいつもと違った。多少の凹凸でも、上を走ると車が上下に揺れたのだ。自家用車では味わうことがないほどに。運転台や助手席に置いていた荷物がいくつか、落ちてしまったほどだ。
どこか壊れてしまったのかを気にしながら運転を続けたが、理由は別なところにあった。
営業所に戻ると毎回、自分で灯油の給油を行うのだが昨日はいつもと違った。
自分が売り上げた数字をメーターが過ぎても、停まらなかったからだ。
冷や冷やしながらもメーターの数字が増えるのを見ていると、出荷量から1,000ℓほど過ぎたところでデジタルの数字は止まった。
ローリー車を入庫して、所長に灯油の補給量のことを報告すると怒られることもなく、その状況が起きたことの説明をしてくれた。タンクが満タンでなかったらしいのだ。
荒れた道で車が跳ねたのも、いつも以上にタンクが軽くなっていたので、へたれているサスペンションがそのショックを吸収できなかったようだ。
まだまだ、この仕事の中で新しく発見すること、驚かされることはどれくらいあるのだろう?
あと残り、二ヶ月の間で。