27,740円。灯油の巡回販売の給料として、初めて受け取った金額だ。
昨日の全ての作業が終了した後に、営業所長から茶色の封筒を手渡された時に、次のようなことを言われた。
金額を確認して中に入っている受け取りに署名と捺印をして欲しい、と。
給料は口座振込ではなくて手渡しなのは、今のご時世では珍しい。
自分が予想していた金額と乖離していたが、受け取りを提出した。
ひとつの理由は巡回の初日に受け取っていた釣銭、20,000円が相殺されていたこと。
だが、それでもまだ自分の考えと開きがあったし、他の理由がすぐには思いつかなかった。 働くようになってから、気をつけるようになったことがある。
それは、仕事で関わる組織を盲信しないこと。自分と雇用関係にある相手は、特に。
そのような考えをもつようになった要因にはいくつもの組織が自分に影響していたが、一番大きかったのはかつての雇用主と簡易裁判所で争った経験だ。
400床もの病棟があった総合病院に勤めたことがあったのだが、その時の給料が一部未払いだったので公的な書類で異議申し立てをしたら、裁判することになってしまったのだ。
その金額は19万円。たかが19万円、されど19万円のために。
お互いに和解する形にはなったが、受け取るべき金額を無事に手にできた。
昨夜の帰り道、給料の金額について考えているとあることを思い出した。
自分が受け取れる給料は日給と歩合にわかれているが、後者の方は一月遅れで別途支給されることを。
また、他に聞いていた話も思い出した。給料が前借りできることと、その制度を利用する人が多々いることも。
日給は固定なので、灯油を販売している人ほど歩合給の金額が多くなる。
今のペースだと自分の場合は日給金額の方が多額になりそうだが、日給金額の倍以上を稼ぐ人も少なくないらしい。
季節労働者になる灯油の巡回販売の専従者にとって、最初の給料は何かと大変なことが多い可能性も、それなりに想像がつく。
そのことも考慮して、雇用相手は給料の前借り対応を行っているのかもしれない。
実績値である販売歩合が担保されていることも、前借りをし易い環境なのだろう。
歩合の最後の受け取りは皆、どうするのだろう? その金額を受け取るためだけに、営業所まで所長を訪ねるのだろうか。
もうすでに、四月の某日のことを想像している自分がいる。