昨日も長く感じた一日だった。
今年は時間の流れが遅い。まだ七月なのに、三年くらい生きた気がする。
夕方、久しぶりに名古屋支社まで出社した。
自社のオフィスなのに気軽に入室できないルールであることもあって、何回訪れてもアウエーな感じがして落ち着かない。
入室するためには入口で内線電話をしなければならないが、電話の横にアルコール消毒液が置いてあったので、受話器を手に取る前に使用した。
電話後にロビーで待っていると、見たことのない女性が現れて会釈した。彼女は自分の名前を口にしながら。
だが、彼女の顔と名前のどちらもすぐに忘れてしまった。というか、記憶しようとする意思すらなかったのかもしれない。
仕事に関してはほとんどのことに興味を持てなくなってしまった自分。
仕事上で知り合った相手であれば、女性の顔と名前でさえ自分の中ではどうでもいい情報になっていることに驚いた。
会議室に通されたので、椅子に座って待っていた。
机の上には一台のノートパソコン。キーボードの上部にはアカウントなどの情報が書かれていた付箋が貼ってあった。
会議室の扉が開いた。
はっきりとした音を立てて入室してきたのは昨年末に入社した、男性の営業社員。
街中のビル前で一回だけ、彼に会ったことがある。
入社したばかりのころの彼は支店長の鞄持ちをしながら、客先へ随行しているようだった。
クールビズなのでノータイなのはわかるが、だらしなくシャツを着ているのが目に入った。
自分より一回りほどは歳下だと思っていたが、久しぶりに見た彼の髪型がどうしても気になった。
ハゲ散らかしているところまではいかないが、数ヶ月前に目にしたときよりは、明らかに髪の量が少なくなっていた。
ただ、髪色は自分と違って白いものは目立っていない。
表面上の挨拶から当たり障りのない話をして面談の時間まで潰した。自分が呼び出された時間からオンラインによる面談までは30分ほどもあったからだ。
そのやりとりの中で夏期賞与の支給日について尋ねると、言葉を選んで次のようなことを口にした。髪を頭に貼り付けながら。
支給日は過ぎていると。さらに彼は続けた。入社してから丸一年経過しないと賞与の受給資格がないことを。
自分が入社する際の話とは違っていた。あくまで自分の記憶だが。
書面でもらっているわけでも、そのときのやりとりを録音している訳でもないので、自分の脇が甘かったとしかいいようがない。
面談は時間通りに始まって30分ほどで終わった。ほぼ自分の予想通りに。
相手が募集しているエンジニアは二人。それに対して20人以上のエンジニアが候補に挙がっているらしい。
もし、その選に漏れたら再来月からの自分の給料は4割に減給される可能性が高い。当てにしていたボーナスがない上に。
ただ、それでもいい気がした。無理に合わないことをして窮屈に生きることに、最近の自分はいささか疲れすぎているから。