次の仕事の面接は九月一日になると、自社の営業からメールを受け取った。
面接相手からの品定めをうまくやり過ごしても、現場に入る最短日は翌日だろうし、現実的に考えると翌週の月曜日くらいになるだろう。
今の状況だと一人の要員募集に対して、最低でも二十人の応募があると営業からは聞いている。
聞いただけ、そのことを確認した訳ではないので、実際のところはわからないが。
危機感を煽るためだけに営業が数字を誇張している可能性だって否定できない。
どうしても、同じ業界の営業に対しては好意を抱くことはできない。
彼ら自身が少しでも何かを削っているようには思えないし、何かを作り出しているとも感じないからだ。
口先だけで、上辺を取り繕うような調子のいいことを言っているだけで。
先が読めないので、少しは自分も動き出している。
アルバイトを探すアプリをスマホにインストールしたので、三件ほどの求人に応募したのは一昨日のこと。
一件は数分後に電話でアポがあったが、他の二件は未だに梨のつぶて。
あまり気持ちのよいものではないがコロナ禍で、買い手市場だから仕方がないのだろうか。
連絡を取ってきた求人はアマゾンに関わる仕事。配送センターでのピッキング作業だ。
仕事で知り合った女性のエンジニアが今、アマゾンの配達を業務委託で請け負っている。アマフレというやつだ。
彼女曰く、客先常駐のシステムエンジニアなんかするよりははるかにマシで、システムの仕事には戻る気はないらしい。
先方から連絡をもらった翌日、つまり昨日が面接に決まった。
アルバイトの面接なのでカジュアルな装いで、名古屋駅近くのオフィスビルまで、午前の遅い時間に車で向かった。
街中に入り、伏見を過ぎるころから交差点などでオフィスワーカーの姿が目に入った。
そのうちの何人かは自分と同業者に思えた。クールビズなのでノータイでだらしなくカッターシャツを着ていたのが気になった。
彼らに既視感を感じてしまったが、そんな自分が嫌だったのは何故だろう?
先方に指定された時間は正午。5分ほど前に指定されたオフィスをノックすると、入り口で消毒の指示と検温後に入室を許可された。
アクリル板を挟んで担当者との面接が始まった。テレビでは見飽きていたが、本物のアクリル板をこんなに意識したのは初めてのこと。
自分と相手とは2メートル近く離れていた。ソーシャルディスタンスを意識してのことだろうか。アマゾンから強い指示が出ているのかもしれない。
マニュアルにそってだとは思うが、担当者の話は淀みなく進んだ。無機的で気持ち悪いほどに。
説明が終わると、オリエンテーションの受講と試しに働いてみないかと誘われたが、はっきりと断った。
車で通勤できないからだ。徒歩、自転車かいくつかの駅に発着しているシャトルバスに通勤の手段が限定されるのは、気軽に体験という気にもなれなかった。
さらに気になった点があった。
もし、作業中に新型コロナの症状が疑われたら帰宅することになるのだが、その場合は自分でタクシーを呼ばなければならないらしい。
最寄りの駅までのおよそのタクシー料金を面接担当者に尋ねると、わからないと答えられたのにも違和感を覚えた。
コロナ禍で通販の荷物が増えて、人手が足りていないのは想像できる。
夜勤であれば1,500円。時給だけを見れば悪い条件だとは思えない。
それまでの仕事が減ったり無くなったりして、金銭的に困り始めている人も増えていることを考えれば、多くの応募があってもよいはずだ。
それにも関わらず、ネットでの広告に頼らなければならない理由は何だろう?
何かしらのメリットがある仕事であれば、今の状況だったらすぐに人が集まるはずだ。
オフラインでの口コミだけでなく、SNSでの情報が伝わるスピードを考慮すると。
安くない時給を受け取ることが出来ても、その他にいくつかの問題があるのではないか。
自分が面接を受けている時も、問い合わせの電話がかかってきた。
自分の後にもきっと、誰かが面接を受けただろう。昨日も今日も、そして明日も。
そのうちの何人かは実際に仕事に参加するだろう。その時には何を見て、何を感じることになるのだろうか。
20代の前半、フリーターだったころにバイト先の社員に言われたことが印象に残っている。商圏範囲はリクルート範囲だと。もちろん、逆にも考えられる。
ある企業が間接的にでも誰かを使役すれば、良くも悪くも企業イメージに影響を与えるはずだ。
ただ、多くの法人のトップたちにはそのことへの意識が欠けているように思えてならない。
ちなみに仕事で関わった企業の中で、プライベートでは使わないと決めているブランドが自分にはあるが、他の人はどうなのだろう?