梅雨らしいまとまった雨が降っていた今日とは違って、昨日の日中は天気がよかった。
そんな六月のある平日の一日を人生の特別な日として選んだ二人がいた。
特別な日を自分は見届ける立場だった。有給休暇を取得して仕事を休んだが、仕事をしているよりもずっと疲れた。
それでも、朝だけは少しのんびりできた。
いつもの朝よりも少し朝寝をしてから礼服に着替えた。白いネクタイを持って出かけようと下駄箱から革靴を取り出したらほこりをかぶっていたので、靴にブラシをかけた。
今の仕事先のドレスコードはスニーカーでもOKなので、革靴を履いたのはかなり久しぶりのこと。少なくとも今年に入ってからは履いた記憶がない。
自分には不似合いな数万円もする革靴だが、出かけたのがそれなりのホテルだったので場違いではなかったはずだ。
迷ったが一応はカメラも用意して車に乗り込んだ。レンズは標準の単焦点一本にしたが。ストロボは携帯しなかった。シャッターを切る気分になるかも自信が持てなかったからだ。
五十日でもなく月末でもない通勤が終わった後の時間だったが、表通りは何処も車が多かった。
空いていれば5分ほどの実家まで、10分以上はかかった気がした。
実家に向かったのは母に頼まれていたからだ。
自分は一人で行くつもりだったのだが、弟の挙式が行われることになっていたホテルの場所を知らないと母が口にしたからだ。
ことある毎に地元風を吹かせるのに、名古屋ではそれなりに名が通っているホテルを知らないのには驚いた。
新郎になる弟が母や自分にタクシーを手配するくらいの配慮があってもよい気もしたが。
実家に着くと母は身支度を済ませていてすぐに出発することができた。久しぶりにしっかりとメイクをしている母を見た気がした。
実家から街中への道も車が多かったが、ほぼ予想通りに30分ほどで着いた。
車をホテルの地下駐車場に停めて弟から聞いていた待合の場所へ向かうと、義妹の両親が廊下の椅子に座っていた。
当日まで両親はともかく義妹さえ面識がなかった自分。母はかろうじて義妹にだけは会ったことがあったようだ。
互いに四人で型通りの挨拶をして挙式が始まるのを待った。
式の後の会食は身内だけの六人だけと弟からは聞いていたので、式も身内だけだと思っていた。
義妹に姉が二人いることを聞いていたので、その二人が出席することはあるかもしれないとは考えてはいたが。
だが、身内以外の出席者が十人以上は居た。全員が自分は知らない顔だった。
時間になるとスタッフに促されてホテル内のチャペルへ向かった。
神父か牧師の違いはわからなかったが、白人のそれっぽい人が爽やか過ぎる笑顔を浮かべて挨拶をしたことが印象に残っている。
式の後は新郎新婦と向こうの両親との六人で会食。
新郎新婦はお誕生席、新婦の両親と向かい合わせに自分と母は座った。
有名ホテルなので感染対策も行われていた。母と自分との間にさえアクリル板が立てられていた。
緊急事態宣言下なのでノンアルコール。乾杯のシャンパンから全て。
料理はフレンチだった。少人数のためか今までの披露宴で味わった料理よりも丁寧さを感じたのは、素面だったからなのだろうか。
それなりの料理だったので、やっぱりアルコールは欲しくなった。
はっきり言って会食は盛り上がらなかった。ウエディングケーキの入刀や新郎新婦がそれぞれの母親へ花束をプレゼントするなどのプログラムはあったのだが。
場をそれなりに持ったのは自分が居たことが大きかったように思うが自惚れだろうか。
会食中に自分はある提案をした。
自分の母と新婦の父親は来月の上旬までに新型コロナウイルスの二回のワクチン接種が完了する予定になっていることがわかったからだ。
二人のワクチン接種が終わった後にカジュアルなスタイルで食事をすることを。
その場では全員が了承したが、実際はどうなるだろう? 今のところ、その件については母からも弟からもそのことについて咎めるような連絡は来ていない。
メインの牛フィレのステーキが出されたころには母の機嫌が微妙になっているのを感じた。
自分以外は誰も気がついていないだろうが。
素直ではないくせに人間嫌いな厄介な一面があるのは自分と似ている気がするこのごろ。
いろいろなことを感じたし考えさせられた緊急事態宣言下の結婚式の出席。
ひとつだけ書くとするならば自分と妻は結婚式についてだけはよい選択をしたと改めて思えた。
式を挙げなかったので誰かを気疲れさせることは少なかっただろう。他人の休みや自由な時間を奪うこともなかったはずだし。