夏には冒険がよく似合う。
梅雨明け前のある金曜日にささやかな冒険をした少女がいた。
彼女は中学二年生。授業が終わるとまっすぐに帰宅して出かける準備ができると、母親に名古屋駅まで車で送ってもらったらしい。
父親が事前に渡していたのぞみの指定席券で名古屋駅から東京駅へ向かった。
300㎞を越えるような移動を一人でするのも、のぞみに乗るのも初めてだったのではないか。
席に座るとすぐに週末の宿題に取り組んだようだ。東京に到着するまでの間に宿題をすることを父親と約束していたからだ。
のぞみに乗っても名古屋駅から東京駅までは2時間もかからないが、特別な宿題でなければ充分にできる時間だっただろう。
宿題が終わった後、隣に座っていた老女が話し相手になってくれたようだ。ちょっぴりお洒落をしていた婦人は京都在住。東京で催されるパーティーへ参加するためにのぞみに乗っていたらしい。
東京駅にのぞみが着いた。婦人と一緒にホームに降りると父親が待っていた。
カッターシャツにジーパンをはいていた父親。珍しく、無精髭がしっかりと剃ってあった。
同行してくれた婦人は父親からお礼を言われると、手を振って先に改札口へ消えた。
先週の金曜日、多摩市のある教育センターで講師の仕事を終えると東京駅に向かった。
革靴をスニーカー、スラックスをジーンズに履きかえてから小田急に乗り込んだ。小田急には数十年ぶりに乗った気がした。
多摩のはずれから東京駅まで向かった理由は名古屋から来る娘を迎えに行くため。
土曜日はディズニーランド、日曜日にはディズニーシーへ二人で行く約束をしていたからだ。
自分と娘はディズニーランドへ行くのはほぼ10年ぶり、ディズニーシーは初来園だった。
婦人と一緒にのぞみから降りてきた娘。婦人と親しげに話していたので、頭を下げた。
身なりや雰囲気から余裕を感じた素敵な婦人だった。自分が彼女の歳になったら、あんなに余裕を持つことはできないだろう。
東京駅からは地下鉄に乗って、千葉県の簡素なビジネスホテルに向かった。
狭いツインルームはディズニーリゾートを楽しむための二人の拠点だった。
持ってきた荷物を娘がベッドにぶちまけると部屋はますます狭く感じた。
明日は晴れそうだが、暑い日にもなりそうだ(つづく)。